TOP ライフスタイル 【京都】老舗の技が光る!女主人の発想で人気急上昇中の「粋なアイテム」

【京都】老舗の技が光る!女主人の発想で人気急上昇中の「粋なアイテム」

2021.07.31

関西の輝く女性にスポットライトを当て紹介する『anna』の連載企画『あんな、ひと』。第3回目は、夏は盆地で暑いことで知られる京都で欠かせない『京扇子』のお店で発見!

老舗専門店の4代目を継ぎ、伝統工芸品でもある京扇子の業界に新たな息吹をもたらす女主人の活躍と素顔に迫ります。

■創業100年の老舗で生かす4代目女主人

画像:anna

今回の『あんな、ひと』大西里枝さんが切り盛りしているのは、京扇子の企画、製造、販売を行う『大西常商店』。

製造といっても実際に作るのは、京都に作業場を構える職人たち。扇子1本に87もの工程があり、20~30名の職人が関わっています。その扇子を主に小物屋や販売店から受注し、要望に沿った扇子を企画。各職人に発注し、納品されたものを卸売りしています。店舗もありますが、小売店への卸がメインです。

画像:anna

この『大西常商店』が、いま注目を集めています。その理由が2018年10月に販売を開始した『ルームフレグランス かざ』。香りを広げるスティック部分に、扇骨と呼ばれる扇子の竹の部分を利用しています。薄く削られた竹は毛細管現象によりフレグランス液を吸い上げて拡散するのにピッタリ。

透かし彫りのようなデザインが特徴の扇骨のスティックは落ち着いた上品さもあり話題に。いまでは、セレクトショップをはじめ、雑貨店や大丸心斎橋店などの大手百貨店でも販売。

画像:anna

扇子屋のつくったシックなルームフレグランスとして人気急上昇中です。

■出産を機に生まれ育った京都に戻ることを決意

大西さんが家業を継ごうと思ったのは、いまから6年前の2015年。出産のため実家のある京都に一時戻ったことから。当時は、通信系の大手IT企業に勤めており、ご主人も同じ会社で働いていました。

画像:anna

全国規模の会社であることから、これまでも福岡県や熊本県など、夫婦そろって転勤を経験。今後も転勤の可能性があることから、“子どもを育てる場所”としての京都を客観的に考えてみたんだとか。

学生時代は、「昨日木屋町で遊んどったなぁ、見かけたでぇ」といったご近所との会話や、距離感などが苦手な時期もあったそうですが、自身の両親が住んでいるのはもちろん、昔は苦手だったご近所とのお付き合いが盛んな京都に、子どもを育てる環境としての魅力を感じるように。

画像:anna

久しぶりに実家で生活していて、なにより気になったのは、曽祖父・常次郎が創業し、祖父、父と経営してきた京扇子店のこと。祖母が暮らしていた住居兼店舗だった京町家の維持や経営など、一度京都から離れたからこそ「新たな視点で家業について考え、発見することが多かった」と話します。

■伝統を守るために業務改善と新商品開発

「ぜんぶFAX、ぜんぶ手紙でした(笑)」と、『大西常商店』に入った大西さんの目に真っ先に映ったのは、メールをはじめデジタル関連に無縁だった職人や納品先との旧式のやりとり。

「お店では“扇子の在庫管理や出庫表が担当者の頭にしかない”ような状態。それをクラウド上で管理し、スマホで誰が見てもわかるように、まずは商習慣を変えることから取り組みました」とのこと。

画像:anna

同時に大きな課題として見えていたのが、扇子が季節商品という弱点。基本的に売れる夏が過ぎると、お店も職人も暇な閑散期になってしまいます。「農業のように、冷夏になって売り上げが落ちると、そのマイナスを1年間取り返せないんです」と、販売が不振だったときの影響が長いんだとか。それが会社だけでなく、扇子の製作に携わる30人ほどの職人たちの生活にかかわってきます。

画像:anna

そこで、取りかかったのが新商品の開発。アイデアを練るうちに生まれたのがルームフレグランスでした。「子どもの頃から扇子であおぐといい香りがしたんですよ。製作工程の中で香りの液体に浸すためなのですが、その香りが1年くらい持つんです」と大西さん。そんな経験から竹の特性を生かしたルームフレグランスの開発に注力しました。

また、その資金にクラウドファンディングを利用し、創業100年の歴史に新たな風を吹き込みました。

■いまは仕事のあとの一杯が楽しみ

画像:大西里枝

基本的に日曜日以外は朝から晩まで働き、和服姿でお店に立つ大西さん。毎朝5時半には起きて、出勤前の時間帯からパソコンに向かい、お店や新しい事業のこと、自身のための勉強などにあてています。

そんな忙しい大西さんの趣味は意外にも、「趣味とかはなくて、本当に飲むことくらいです(笑)」とのこと。プライベートと仕事の垣根があまりない生活を送っているため、楽しみはその日のことを振り返りながらお酒を飲むことなんだそう。

画像:大西里枝

リモートワークを終えたご主人と飲むビールが、なによりの息抜き。そこで話すことから、アイデアが生まれたり、また明日への原動力になったりしているそう。「コロナ禍の前は、職人と飲むこともあったんですが。今はなかなか……」と残念そうに話します。

■伝統と職人の世界を守るために進み続ける

画像:大西里枝

「全国的なインテリアショップに置いていただけるなど、思っていた以上に売れた」という『ルームフレグランス かざ』は、予想を上回るスタートを切りました。現在はラインアップを増やすなど、今後のビジョンをカタチにする作業を進めています。

一方で、新商品の開発とともに業界の課題として見えてきたのが、「20~30代の職人が極端に少ない」という現実。扇子に限らず、京都の伝統工芸品業界でも大きな問題です。

そんなことから、仲のいい企業経営者と『六根Life&Craft』を設立。個人事業主である職人たちの事業運営や育成のサポートを始めました。

画像:大西里枝

「京都には、京都伝統工芸大学校をはじめ“技術を教わる学校”複数があります。ただ、仕事をとってくる営業の仕方や確定申告のやり方などを職人に教えてくれるところがほとんどないんです」と大西さん

昭和時代には徒弟制があり、師匠や親方が独立前にマネジメントの部分まで教えてくれましたが、いまはそのチャンスが多くありません。『ルームフレグランス かざ』の開発時に利用したクラウドファンディングで人と人の繋がりの大切さを改めて実感したこともあり、職人たちが経営について知る機会や、繋がって情報交換をする場所を提供する必要性を感じました。

そんな想いに、国内企業ではなく京都にも店舗のあるアメリカ・カリフォルニアで創業した『ブルーボトルコーヒー』が賛同し、資金を提供。

画像:大西里枝

その資金を使い、月に1回、合計12回の予定で、すでに独立した若手職人のほか、これから起業を目指す職人のためのセミナー運営にも取り組んでます。

■気負わず自然体で京都の町の伝統継承を考える

画像:anna

職人の育成だけではなく、家業である『大西常商店』がある『京町屋』の存続にも力を入れています。

「いまの町家を100年後に残そうと思ったら、総額で3億円ほどかかるといわれているんです。それを考えると町家はどんどんなくなっていくと思うし、それは仕方ない。それでもなんとかならないかと……」と大西さん。町家の良さを伝えるためにも、お店の大広間や茶室をレンタルスペースとして貸し出しています。

画像:anna

お店を継ぐ際に、ジャージとパジャマ以外の洋服のほどんどを捨て、お店では常に和服を着るなど、思い立ったことは実践。

画像:anna

楽観的な明るい未来を見るというより、リアルな数十年後に目を向け、お店の将来をはじめ、いまの京都の文化や技術などの伝統が少しでも継承していくよう、体当たりで動いている大西さん。創業100年の老舗を切り盛りする、笑顔がとてもすてきな4代目女主人でした。

画像:anna

<店舗情報>
大西常商店
住所:京都府京都市下京区本燈籠町23
電話番号:075-351-1156
営業時間:10:00~17:00
定休日:日曜日

■「大西常商店」のおすすめ商品!

(1)菖蒲 葡萄色 4,400円(税込)

画像:anna

夏扇子。大胆に描かれたショウブは迫力がありつつも上品な印象です。

(2)春の空 2,970円(税込)

画像:anna

夏扇子。桜の枝と花をあしらった薄いブルーの扇面です。

(3)花に集う胡蝶 茶地 4,950円(税込)

画像:anna

夏扇子。茶地の扇面にチョウのアクセントが華やかです。

(4)扇ルームフレグランス かざぷち 5,280円/50mlの香料付き・扇ルームフレグランス かざ 8,800円/100mlの香料付き(各税込)

画像:anna

ディフューザー用リード(スティック)に、京扇子の加工技術を活かしたぜいたくな白だん扇子の仲骨を使用。『玄』『素』『翠』の3種類あり、それぞれ色や香りが違います。今までにない伝統技術融合の和フレグランスはすべて京都で作られています。

今回は京都にある創業100年続く京扇子の企画・販売・制作を行う老舗店『大西常商店』の4代目女主人・大西さんの素顔に迫りました。取材時も浴衣を着て、近所を忙しく走り回る、パワフルで笑顔が絶えないとってもすてきな女主人でした。

【関連記事】5年連続「日本のベスト50」に選ばれた、大阪の注目女性バーテンダーとは?

『あんな、ひと』では、次回も関西で活躍する女性にスポットライトを当て紹介します。お楽しみに!(取材・文/高田強・撮影/井原完祐)

【画像・参考】
※ 大西里枝/anna

この記事は2021年7月31日(土)に配信していますが8月3日(火)に再編集しています。



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