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「棍棒こんぼう」…手に持って、何かを打ったりするのにちょうどよい長さの棒(『新明解国語辞典』より)。殴打用の武器として扱われることが多く、最も基本的な武器として原始時代から使用されているものです。
そんな棍棒を作り、新しいスポーツ競技にまでしてしまった人物が、宇陀市で農林業に携わる東祥平さんです。
東さんが奈良にやってきたのは2015年のこと。農林業に興味を持ち大阪から宇陀市大宇陀に移住しました。本格的に棍棒作りを始めたのは2021年から。
作り始めた明確な理由はわからない。畑の杭くいを打つために棍棒らしきものは作っていたり、山林整備の仕事の中で薪か棍棒にしかならないサイズの木が手に入ったり。そのような理由も考えてみたそうですが「棍棒の方からやってきた」が一番正しい表現だと東さんは話します。
棍棒にはカシを中心にクヌギ、ナラ、ウメなど硬い種類を使います。持ち手の部分をなたで削り、グラインダーなどを使って滑らかな手触りに仕上げていくのがこだわり。長さや重さも様々で一本一本に個性を感じます。
2022年2月には大阪市内で「大棍棒展」を開催。65種類の木で作った210本以上の棍棒が展示されました。
「展示販売をしたら、なぜか100本も売れました。令和の時代に棍棒なんて使わないはずなのに」と東さんは笑う。じわりじわりと棍棒が話題になる中で、ひょんなことから棍棒を使ったゲームが誕生する。
「やっぱり棍棒って殴る道具なので持つと殴りたくなるんですよね。そうしたら誰かが『木片を叩いたら飛ぶんじゃないか』と言うので、そこら辺の木片を拾ってきて台に置いて叩いたら回転して飛んでったんです。これが面白くなって距離を競うようになり、後に攻守を取り入れるなどルール化してチームスポーツになっていきました」。新スポーツ“棍棒飛ばし”の誕生です。
棍棒飛ばしは2チーム間で攻守を交代しながらチームの合計得点を争う競技。攻撃側は殴打用の棍棒「殴打棒」を使って、飛ばすための棍棒「被打棒」を殴り飛ばし、被打棒がコート内のどの得点範囲に静止したかで採点され、その合計得点を競います。
守備側は「撃墜棒」で飛んできた被打棒を打ち返したり、キャッチしたりして攻撃を防ぐというルールです。
「日本サッカー協会のHPにある競技規則を見た時に、すごく細かくルールが決められていて。これは作り込まないといけないなと思いました」。 コートや棍棒、服装に至るまで細かい規則を定めました。
競技と同時に「全日本棍棒協会(ZNKK)」を立ち上げた東さん。棍棒飛ばしの大会を開催すべく、チームを結成。チーム名は「大宇陀神殴仏s」。由来は、大宇陀の“陀”が仏陀の陀であることから仏s。そこにカッコよさをプラスするために“神殴”を付けたそう。
東さんは『こん棒飛ばし大会のしおり』を作成し、競技の普及とチーム結成のサポートをするために全国各地を回った。
2022年10月には初の全国大会となる第0回大会が、翌年には第1回大会が大宇陀健民グラウンドで開かれ、4チームと個人参加合わせて男女50人以上の競技者が参加しました。
できるだけ遠くに飛ばそうと棍棒を振り下ろす殴打者に対して、撃墜者はできるだけ失点を阻止しようと泥だらけになりながら飛んできた被打棒を弾き返して応戦。第0回・第1回ともに東さん率いる大宇陀神殴仏sの優勝で幕を閉じました。
「棍棒飛ばしは山林整備の中で生まれたスポーツ。一般的に“里山保全”というと堅いイメージがありますが、わかりやすく楽しい、そして里山保全に繋がる競技が誕生して良かったと思います。キャンプなど自然の中で過ごすだけではなく、山の木をはじめとする現地の生き物たちとも触れ合うきっかけになれば」と東さん。
「今後は全国大会から国内リーグ、そしてワールドカップまで広げていきたいですね。そのためにも山の木のケアをこれからも続けていきたいと思います」。
自然保護に一石を投じる棍棒。東さんたちの活動が広がり「大棍棒時代」が幕を開ける日も近い。
Profile
1991年3月生まれ。2015年に大阪から宇陀市に移住し、農林業に携わる。2021年に本格的な棍棒作りを開始し、全日本棍棒協会を設立。会長に就任する。昨年2月に「大棍棒展」を開催。同10月には同協会が考案した競技「棍棒飛ばし」の全国大会を開いた。
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