高校生が作る絶品ヨーグルト!京都府立須知高校の仕事の流儀
前回の海洋高校取材では大人気のサバ缶に注目しましたが、今回注目する高校には「催事に出せば即完売!の、絶品ヨーグルトがある」との噂を聞きつけ、京都府のおよそ中央部に位置する京丹波町にやってきたKYOTOSIDE取材班。
今回の京都府立須知(しゅうち)高校は、食品加工に力を入れている学校とのこと。高校生が作る絶品ヨーグルトとは?
須知高校とは一体どのような学校なのでしょう・・
国内でも有数の広大な敷地面積を誇る京丹波町の府立高校
須知高校は、京都府船井郡京丹波町にある唯一の府立高校です。
京丹波町は町全体の約83%が森林、そこに里山や田園が広がる、自然豊かな農山村。
本日は、授業でヨーグルト製作実習があると聞いてやってきた取材班。学校に到着してまずビックリしたのは…。
この学校、敷地がとにかく広いんです!
聞けば、校舎付近に広がる畑や森林(ウィードの森)、見渡せる山のいくつかが、この須知高校の敷地内と言うではありませんか!その敷地面積は、14万7000平方メートル!須知高校は、国内でも有数の敷地面積を誇る高校でした!
敷地内には、生徒達が飼育管理しているポニーや羊、犬、豚もいました。高校に羊や馬がいるなんて…ちょっと不思議な感じです。
須知高校ってどんな学校?
早速、副校長の井戸先生に、まずは須知高校がどのような学校なのかをお聞きしました。
須知高校は、今から140年前、1876(明治9)年に創設された京都府農牧学校を前身として、京丹波町と共に歩んできた府立高校です。
設置学科は、少人数制で細やかな指導が行われる「普通科」と、食と農のスペシャリストを養成する「食品科学科」の2つ。京都の中でも、須知高校は特に、食品加工に定評のある学校で、営業許可を取っている府立高校の中でも、その数はナンバーワンだと言います。
この食品科学科では、農業生産、食品製造、販売・流通まで一連の流れをトータルに学習します。また、地域の特産品を活用した商品開発にも挑んでいるそうですよ。
1学年およそ30名ほど。1年生の時に共通で基礎を学んだ後、2・3年生は食品加工コースと、公園管理コースに分かれて、実習も含めた専門的な学習を行います。
詳しくは↓↓をチェック!
穀物加工専攻:穀物(米・麦・豆など)の栽培管理とともにパン、菓子、味噌などを製造。
園芸加工専攻:草花、野菜の栽培と、梅干しや野菜の漬物などの製造。
乳肉加工専攻:家畜の飼育管理と、ヨーグルトなどの乳製品やソーセージ等の肉製品の製造。
●公園管理コース
花苗や地域特産の黒豆の栽培管理、学校林「ウィードの森」の整備、里山の保全と活用。愛玩動物の飼育。
普通科もですが、須知高校の特徴としてあげられるのは、少人数制での授業であることです。
そして、およそ生徒3人に1人の割合で先生がおり、子どもたちとの距離感も近く聞きたいことがあればすぐ聞ける環境とのこと。29名の教諭の他に、実習助手や技術職員さんなどもいらして、およそ65名ほどの先生がいらっしゃるのだとか。まさに家庭教師級の手厚さですね。
東京大学・北海道大学に並ぶ日本三大農業教育発祥校の一つ
お目当てのヨーグルト実習まで少し時間があったため、私達取材班は、校内にある「京都府農牧学校資料館」を見せてもらうことにしました。案内役は、資料館設立時に資料集めなど中心となって尽力した、地歴公民科の教諭・辻垣先生です。
この資料館は、須知高校創立70周年記念(平成29年度)に設立されました。ここには須知高校の前身である京都農牧学校の入校願や学資金明細書、教科書や農具などが展示されています。
前述した、須知高校の前身である「京都府農牧学校」が創設された明治初頭、日本では北海道に札幌農学校(現・北海道大学)、東京に駒場農学校(現・東京大学)が設立され、京都府農牧学校を含めた3校は現在、日本三大農業教育発祥校と呼ばれています。
実は凄い学校だった須知高校!!しかし、何故ほかの2つに比べて知名度が圧倒的に低いのか…
これは当時の資料がほとんど残っていないからなのだそうです。残っているのは、近代農業教育発祥の地と呼ばれていたという伝承と教科書、そしてわずかな農具。
辻垣先生は須知高校に赴任以来、関連する当時の史料を探して集めだしました。さまざまな史料を見つけていくうちに、特に、辻垣先生の興味を引いたのは、京都府農牧学校の主任教師を務めたアメリカ人のジェームス・オースチン・ウィード先生の存在!北海道でいうクラーク先生のような方が、この京都にもいたのです!
このウィード先生とは一体どのような方だったのか…?
辻垣「それがよく分からなくて(笑)。ウィードが残した唯一の直筆史料が、この契約書のサイン(写真)だけなんですよ。」
ウィードは、写真も記録もほとんど残っていない謎の人物なのだそうです。一応、実在の人物であるのは間違いなさそうで、先生たちが探し出した明治45年の資料に書かれていた記述「通訳を付けて講義形式で授業をしていた」「乗馬を好み、遊猟をたしなみ、放課後は毎日3頭の猟犬を伴い山野を跋渉していた」―これら情報を元に、生徒がイラストでウィードを表現したパネルも展示されていました。
超マニアックな探究心を持つ辻垣先生は、今も謎のウィードを探し新たな史料を見つけるため、生徒達と結成したウィード研究班を連れて現地に赴くそう。京都を辞した後にウィードが住んだ神戸の家の特定や、アメリカのウィードの子孫まで目星を付けたそうです(熱意に感服!)
クラーク先生の「少年よ、大志を抱け」のような名言が残っていないかも現在探し、農牧学校開校の式辞から見つけた「一葉を、百葉に」という言葉を広めたいとおっしゃっていました。
食品科学科の実習風景を見学!
さて、いよいよ実習時間になったので、食品科学科の実習棟「味来館(みらいかん・写真左上)」へとやってきました。
ここで案内してくれるのは、穀物加工専攻教諭・農場部長の中西先生。(写真左下)。
まずは、取材班も全員、帽子、全身を覆うエプロン、マスクを身に着け、長靴に履き替えます。その後、エアシャワーを受けてから、実習室へと入ります。髪の毛やまつ毛が1本入るだけで、その商品は全て回収となってしまうそう。食品を取り扱う現場ということで、特に衛生面には気をつけています。
本日は、高校3年生の実習現場を見せてもらいました!
穀物加工専攻の生徒さんが作っていたのは、クッキー。催事に向けて大量生産の真っ最中で、緊張感も漂う現場での生徒さん達の顔は真剣そのもの。
この実習では、任された仕事を最後までやりきること、責任感を学びます。そして、みんなと協力して何かを作り、それを売るところまでが教育の一貫。
「クッキーが作れるようになったということだけでなく、その先まで学んで欲しい。」と中西先生はおっしゃいます。
乳肉加工専攻の生徒さんは、ソーセージ班とヨーグルト班に分かれて作業を行っていました。
本日行われていたのは、連なったソーセージを1個1個切って重さを計ってプレス機で真空詰めにする作業。現場には、芳醇なお肉の香りが漂います。
このソーセージの原料は、生徒さん達が校内で自分達の手で肥育した豚です。豚は出荷された後、枝肉(骨が付いたままの状態のお肉)となって学校に戻ってきます。ここから丁寧に脱骨し、精肉して、ソーセージやベーコンなどの加工を行います。生徒はこの体験を通して、命を頂くことがどういうことなのかも学習します。
大人気の須知高ヨーグルトの製造現場を見せてもらいました!
さて、いよいよ本日のメイン取材である、ヨーグルトの製造現場へと足を踏み入れました。
ちなみに、乳加工実習室の中には、ヨーグルト、アイスクリーム、チーズ、バターとそれぞれ製造室があります。ここの実習室で使う機械類はすべて、使う時に組み立てて、使い終えたらバラバラにして、細かい部品をひとつひとつを洗って仕舞うという、とても丁寧なお仕事が毎回行われています。
非常に大変な作業ですが、食べ物を作るということは、それだけ責任重大であり、誠実さが求められる仕事なのだと感じました。
須知高のヨーグルト「ヨーグルティー」は、おとなり南丹市の名物・美山牛乳を使用して作られます。
まず、牛乳に砂糖、乳酸菌を混ぜたヨーグルトの種を作り、ターンテーブル方式の機械でカップに充填していきます。(この機械では1時間に1500個のペースで作られるそう!)その後、このカップごと発酵急冷庫で一定時間温めた後に冷やされると、ヨーグルトが完成!
充填されるヨーグルトの種を飲ませてもらいましたが、サラサラっとした飲料状態で、しかもすごく甘い。ミルクのコクは感じるのですが、ヨーグルトの酸味はまだ感じられません。
次に、完成品の方を試食させてもらいました。
一口すくって、口に入れてみたところ…「何これ!?美味しい!!」
おせじ抜きに、自分が普段食べてるものより格段に美味しく感じたのです。ミルクの甘味、風味、コク、そしてほどよい酸味がマッチした、素晴らしいヨーグルト。食べていて、なんだか幸せな気持ちになるような印象を受けました…。
副校長先生曰く、このヨーグルトは須知高校一番人気の商品で、この美味しさがクチコミで広がり、催事に出すとすぐになくなってしまう逸品になってしまったとのこと。1個60円(催事によっては価格変動あり)という安さも相まって、箱買いしていく方や、注文が出来ないかとの相談を受けることも多いそう。
一度食べればファンになり、リピーターとなるのも頷ける、納得の味のヨーグルトでした。
このヨーグルトの味を決めているという小林先生(写真右)に美味しさの秘密を伺いました。
一般的なヨーグルトの作り方として、市販のプレーンヨーグルトを買ってきて、それを牛乳に投入して乳酸菌を増やして(固めて)から容器に充填するというパターンが多いそうですが、須知高校は初めの段階で乳酸菌自体を植え付けてからカップごと一定時間温めて(発酵させて)その後冷やすという方式をとっています。そうすることで味も変わり、より深みを出せるのだとか。異物混入も防げるといます。
乳酸菌も、現在使用しているのはデンマークから輸入しているハードタイプのもの。これも、さまざまな乳酸菌を試す中で小林先生が決めたものだそうですが、先生ご自身も今も日々、味の探求を続けられています。
※ちなみに、これら生徒さん達が作った商品は、販売実習や催事、京丹波町界隈の道の駅(京丹波 味夢の里/和 京丹波和知/瑞穂の里・さらびき)などで購入できるそうです。
須知高で学んだ生徒達の将来
3年生で、元生徒会長である坂本匠くん(園芸加工専攻)に、どうしてこの学校に入学したのか、そして将来像を聞いたところ、このように答えてくれました。
「自分の家は専業農家で、米やホウレンソウを作っています。ずっと父の背中を見て育ち、将来は農家になりたい、農業の基本を学びたいと思って須知高校に入りました。今は農業でもたくさんの問題が出てきているので、卒業後は大学で経営を学びながら“儲かる農業”を学びたいと思います。京丹波町は水がきれいで、このあたりでは美味しいお米が食べられるんです。日本の人にも知ってもらいたいですが、今後は海外にも発信したいなと思っています。」
以前、添加物アレルギーを持ったお子さんの保護者から「須知高校の食品は安心して食べられます。」という御礼の手紙が来たことがあり、その手紙を読んだ生徒の一人は、「子ども達のために栄養学を学びたい」と言って栄養士になることを志し、大学に進学した子もいたそうです。
140年の歴史の中で数えきれないほどの人材を輩出している須知高校。未来のファーマー、調理師、パティシエほか、警察官や公務員、食品メーカーなど、ここで学ぶ生徒の未来は無限大に広がっています。
ユニークな先生方と少人数で学ぶ「生きた教育」
出来るだけ学校で栽培したもの、飼育したものを最大限に利用して作り出す加工食品。可能な限り京丹波町の特産品を活用した商品開発。
これらを教えてくれるのは、熱心でユニーク、生徒思いのとってもハートフルな先生方。豊かな自然に囲まれた教育環境の中で、栽培・食品作り・販売をトータルに、少人数で学べるのは須知高校ならではかもしれません。
また、謎のウィード先生の探索も、KYOTOSIDEは今後も注目していきたいと思います^^
机上だけでは学べない「生きた教育」が魅力の京都府立須知高校、ぜひ、この機会に知ってくださいね!
■■INFORMATION■■
京都府立須知高等学校
住所:京都府船井郡京丹波町豊田下川原166−1
TEL:0771-82-1171
http://www.kyoto-be.ne.jp/syuuchi-hs/
【告知】須知高校のヨーグルトを食べたくなった方へ朗報!
京都府立高校フェア
京都府下の各府立高等学校では、それぞれ特徴的な活動がされています。
教育活動を通じた産学連携による京都ブランドの向上を目指し、各高校の生徒さん自ら、自分達で作った商品を店頭に立って紹介・販売しますが、どれも高校生が作ったとは思えない逸品ばかり!ぜひ、この機会に京都髙島屋へお立ち寄りください!須知高のヨーグルト、クッキー、ソーセージ、野菜なども販売されますよ!
期間:2018年11月14日(水)〜27日(火)
会場:京都髙島屋地階 食料品売場(京都市下京区)
期間中の販売実習日時/参加高校 ※売り切れ次第終了
■11月17日(土)・18日(日)各日10:00〜14:00
京都府立桂高等学校(野菜の販売・惣菜メニューの試食宣伝販売)
※11月14日(水)〜27日(火)の期間中、地階惣菜売り場にて生徒達が育てた京野菜を使った惣菜メニューを販売。
■11月17日(土)10:00〜14:00 ※以下4校の商品は17日(土)のみ販売。【開催終了】
京都府立大江高等学校(パッケージデザインを行ったアイスミルクの販売)
京都府立海洋高等学校(ホンモロコ・ヒラメ・トラフグの販売)
京都府立木津高等学校(茶葉の販売)
京都府立須知高等学校(ヨーグルト・ソーセージ・クッキー・野菜等の販売)
問い合わせ:京都髙島屋(075−221−8811)生鮮売場サービスカウンター