避難所としても期待!京都・妙心寺が最新総合防災システムを導入!!潜入レポ
9月は防災月間です。他県からも視察に訪れるほどの、最先端&大規模な防災システムを導入している大寺院が京都にある!との情報をキャッチ。早速、京都府文化財保護課の職員さんと一緒に現場に行ってみました!!
東京ドーム7個分の敷地面積を誇る大寺院
今回訪れた妙心寺は全国・世界に3400の末寺をもつ臨済宗妙心寺派の大本山です。1337(建武4)年、花園上皇の離宮を禅寺に改め、関山慧玄〈かんざんえげん〉(無相大師)を開山として創建されました。
南から勅使門、三門、仏殿、法堂、寝堂といった建物群が一直線に並ぶ大伽藍は壮観!本山を取り囲むように46の塔頭(たっちゅう)寺院が軒を連ね、京情緒あふれる歴史的な街並みに出合うことができます。
今回出迎えてくださったのは、大本山妙心寺法務部の津田章彦さんです。
妙心寺の防災システム、これまでとこれから
妙心寺の防災の歴史
―――はじめまして、本日はどうぞよろしくお願いいたします。最初に妙心寺が防災に力を入れるきっかけとなった出来事を教えてください。
津田 昭和37年の壬生寺火災で防災意識が高まってきている矢先、同年に妙心寺も重要文化財の「浴鐘楼」から出火、大切な文化財を失います。この火災をきっかけに昭和44年に初代防災システムを導入しました。
▶京都市消防局HPより「昭和37年9月1日妙心寺鐘楼放火炎上」について
―――当時の新聞記事を拝見すると、門前は500人あまりの火事の見物人でごった返し、消防車が思うように走れず到着が遅れたことや、初期段階で火災を発見した見物人たちがお寺や消防に通報せずに火事を傍観していたことなどが書かれていますね。
火災は早期発見、初期消火、延焼防止、この3つのポイントが大事です。今回一新した総合防災システムでは、参拝者の方々や近隣の住民の方々に協力していただけるよう環境を整えました。
社寺では前例のないほどの大規模!ハイテク防災システム
―――今回の防災事業ですが、前例のない規模で行われたそうですね?
昭和44年から約50年経過した防災設備の老朽化に加え、妙心寺一括りとしての防災がテーマでした。重要文化財を含まない塔頭寺院を含めて国内で前例のない規模での防災施設の見直しや施工を、国庫補助事業として実施できるように文化庁に折衝を重ねました。
平成25年に4か年計画で新たな防災事業がスタートし、平成29年10月に竣工、平成30年3月に落慶法要を行いました。それと平行して、電線地中化と水道管布設替え工事も同時進行で…。調査から含めると竣工まで約7年かかりましたね。総工費は20億円(防災15億円、地中化5億円)に及びました。
―――今回導入された総合防災システムの具体的な特徴を教えてください。
東京ドーム7個分の境内を4つに区分化し、それぞれに貯水層を備えたことで境内全域で放水可能に。境内、塔頭寺院あわせて119の消火栓、伽藍横の放水銃26基を設置し、遠隔装置でエンジンポンプを起動すれば誰でもどこでも放水できるようになりました。さらには、周辺住宅地で火災が発生した場合を想定し、隣接する塔頭寺院外壁と建物に延焼防止システムを導入、設置しました。
―――ここまでの壮大な規模になるとご苦労も多かったのでは?
本当にそうでした。塔頭寺院を含めて妙心寺一括りの事業だったので、全塔頭寺院の住職の皆さまに納得していただくまで折衝を重ねたこと。また、配管や貯水層の工事の際、掘削するたびに埋蔵文化財が掘り当てられるなど、大変なことも多かったです。
埋蔵文化財が見つかるとその都度、調査が入るので工期が変更されたり、埋蔵文化財の保存内容によっては工事内容そのものの変更が必要とされたりするケースも多々ありました。
―――お話をおうかがいして「先人達が大切に引き継いできた歴史や文化を後世に守り伝えたい」という一丸となった強い思いがあってこそできることだと思いました。
災害時の避難所としての妙心寺!住民からの期待も
―――境内全域、電線地中化で以前よりも増して素敵な景観になりましたね。電線を地中化すると落雷、台風、浸水、地震、火事、竜巻などの影響を受けづらくなるというメリットもあるそうですね。
はい、そうなんです。妙心寺は地域住民の方々の避難場所としての役割も持っています。立命館大学の学生さんによる有事のアンケートによって思いのほか住民の方々が頼りにしてくださっていることを知り、驚きました。
―――近隣住民の方々は避難所としての可能性を期待されているんですね。避難所といえば一般的に小学校とか公民館のイメージが強いので、大寺院が多い京都ならでは感がありますね。
本坊は京都市の避難所に指定されています。避難所想定見取り図を作成したところ、最低でも556畳のスペースを提供できることがわかったんです。また、井戸があるので断水したときでもトイレやお風呂に入っていただけますし、井戸水を沸かせば飲めるかもしれない。禅寺なので竈がありますから炊き出しもできます。
―――えええ!?すごい。
そういったことまではまだあまり住民の方々もご存知ないと思うので、今後は積極的に周知していきたいですね。ただ、常備食の確保などが不十分なので、京都府や京都市などにも協力をしていただけるとありがたいです。
誰もが文化財を守ることができる環境が大切
―――令和元年度は4月にはフランス・ノートルダム大聖堂、10月には沖縄・首里城の火災が発生するなど文化財についての防火や防災対策への関心が一層高まっていますね。
妙心寺では、火災だと気づいた方がどなたでも消火活動や延焼防止していただけるように、起動ボタンを押したらすぐポンプが起動する防水ポンプや延焼防止の放水銃を設置しています。とはいえ水をかけることによる文化財の損害もありますから、本当に有事の非常手段ではあります。
―――早期発見、初期消火、延焼防止、この3つがポイントだとおっしゃっていましたもんね。もう、覚えました~!
その通り、初動が大事ですね。首里城のすぐ近くにある臨済宗寺院のご住職から聞いたのですが、パチパチと20-30センチもある大きな火の粉が飛んでいたそうなんです。
たまたま風向きが逆だったことで難を逃れたそうですが、ここまで燃え盛ると瓦葺屋根だったとしてもひとたまりもない。そこまで延焼が進まないようどれだけ初期段階で鎮火できるかにかかっています。
―――妙心寺は京都市消防局の消防団協力事業所として認定されているそうですね。
はい。現在、私を含めて3名が地元の消防団で活動しています。文化財を預かる身として、防災の理解を深めて積極的に行動する立場だと考えており、今後も消防団を通じて地域の方々と交流を深めていけたらと。
コロナの影響で防災訓練が延期になってしまい、今年はまだ1度もできていません。いざというとき人間も機械もすぐに動けるように、年に2回定期的に訓練を行えるよう今後しっかりと計画していきたいと考えています。
多様な文化財を未来へ!京都府独自「京都府暫定登録文化財」を創設
―――最後に京都府文化財保護課の職員さんにおうかがいしたいのですが、文化財の保護について京都府の取り組みについて教えてください。
府職員 近年の大規模災害でも多くの文化財の被害が報告されています。それら文化財の中には国や地方自治体から指定されてなくとも価値の高いものが多数あり、これらが失われてしまわないよう平成29年度に「京都府暫定登録文化財制度」を創設しました。当制度で地域の文化財を早期に保護する仕組みを整え、破損や流出などの防止を図っています。
―――京都府文化財保護課のHPでは京都府暫定登録文化財の一覧表を見ることができますね。自分の住んでいる地域での登録状況がわかりました。
府職員 府内各地で多様な文化財が守り伝えられてきましたが、その一方で個々の文化財はそれぞれに異なった状況や課題を抱えています。分野ごとに地域の特色を踏まえた対策を府と市町村で協力し合って対策していくことはこれからも大切だと考えています。
―――今回、歴史ある妙心寺が避難所としての顔もあることがわかりました。また、京都府内は至る所に文化財があるので、府民一人一人が防災意識を高めることが文化財を守ることにも繋がっていると感じました。本日はありがとうございました!!
■■INFORMATION■■
075-466-5381(参拝課)
京都府京都市右京区花園妙心寺町1
9:00~17:00
JR「花園駅」から徒歩5分
京都府文化財保護課
http://www.kyoto-be.ne.jp/bunkazai/cms/?page_id=253