京都・宇治の飴屋さんが作るこだわりの千歳飴
11月15日は子供の健やかな成長を願う七五三の日。毎年この季節になると、おめかしをして神社におまいりに行く子供達の姿を見かけます。その七五三のお祝いに欠かせないのが「千歳飴」。京都府宇治市にある京の飴工房・岩井製菓でも毎年「千歳飴」が作られており、その数、なんと約50万本!! そこで「千歳飴」作り最盛期の10月中頃、岩井製菓を訪ね、製造の様子を見学させていただきました!
宇治市に本社工房を持つ、京飴の名店
岩井製菓の本社工房があるのは京阪電車の三室戸駅から徒歩約3分のところ。創業は1964(昭和39)年、昔ながらの地釜で丹念に京飴を作っている名店です。
こちらの千歳飴作りは毎年7月下旬(梅雨明け)頃からスタートします。そんなに早く開始されるのは、全てが手作りゆえ。一体、どのような工程で作られるのでしょうか。そこで2代目社長の岩井正和さんに工房を案内していただくことにしました。
昔ながらの地釜で15キロずつ飴を炊く
工房があるのは本社の1階。手作りとはいえ、千歳飴だけで約46万本も作っているのだから、さぞかし広~い工房で、給食を作るような大きな鍋で飴を炊いているのかと思ったら、こんなに小さな鍋で炊いていたなんて、びっくり! しかも火は昔ながらの地釜です。
「うちでは昔ながらの地釜を使い、少量ずつ時間をかけて丹念に煮詰めて作るんです」と社長さん。この地釜は1000枚の耐火レンガで作られ、中は耐火モルタル製。
「これだと火が鍋の真下と横から包むように当たるので、遠赤効果で火が柔らかく全体に当たるんですよ」。
地釜の口は4つありますが、それでも一鍋で作れる飴の量は約15キロ。これを日に何度も炊くのだそうです。これは時間がかかりますね~。
しかも、この鍋がとっても重いんです! 鍋と棒の重さが計5キロほどなので、飴の材料を入れると総重量は約20キロ。試しに飴の入っていない鍋を持たせていただいたのですが、想像以上に重い~。バランスが偏っているのでダンベルを持つよりも重く感じます。
写真の水嶋さんは入社10年目なので軽々と持っていますが、私は持ち上げることさえできませんでした(重いものを持つのには自信があるのになぁ…)。
さて、飴の材料は水とグラニュー糖と水飴。炊き上がりの温度は160度なので、そこに到達するかしないぐらいのギリギリの温度で炊くことで、味わいに香ばしさが加わるのだそうです。しかし鍋を見ると温度計はありません。昔は高温に対応できる温度計はすぐに手に入らなかったそう。
「初代である親父からは“温度計が壊れたらどうするんや。温度計がなくても泡目や色、蒸気の量、攪拌棒からしたたる具合を見て温度が判断できるように”と言われてきました」
このように職人さんが細やかな見極めをしながら炊いていくので、美しくて美味しい飴ができるんですね。
水で飴を冷却し、体全体を使って練り込む
飴が炊きあがったら隣の冷却板に飴を入れて冷まします。冷却といってもクーラーで冷やすのではなく、こちらも昔ながらの方法を用い、冷却板の下に通っている水で冷やしています。飴を炊くのも冷却するのも自動化にしたらあっという間なのでしょうが、素材の良さを最大限に生かすため、丁寧に手作りされています。
飴は板に触れているところから徐々に固まっていくので、練り返しながら全体を冷やし、一つの塊にしていきます。
今回は白地に赤のラインが入った飴を作るので、飴の一部をとって赤い色を付け(写真左)、残りはミルク(全脂粉乳)をたっぷり加えて練っていきます。
この色や味付けは加熱工程時に一緒に行う工場が多いのだそうですが、「僕らは冷却している時に色や味を付けていきます。素材の味を最大限ひきだせるんですよね」
でも、冷却しながら、味付けをし、練るのは腕や腰が大変そうだなー。こうやって全身を使って手作業で作られているのかと思うと感動です。
今度は機械の力も借り、飴に空気を含ませながら練って真っ白にする「飴引き」という工程です。
「縁日などで売っている水飴を練って白くした経験はありませんか? あのような感じです」
飴に空気を含ませることにより、軽い口当たりと、カリッとした食感が生まれるのだとか。添加物を加えて空気を含ませる工場もあるそうですが、こちらでは機械の力も借りながら丁寧に引いていきます。
いよいよ長~い千歳飴の形に
さて、練り上がったミルク飴に赤い飴を組み合わせ、細長い形にしていきます。機械から出てきた飴を手で捻じり螺旋状の模様を作ります。そしてカットをすれば千歳飴の完成。一見、簡単そう(?!)に見えるかもしれませんが、飴を捻じる人とカットする人の呼吸が合わないと、こう上手くはいかないんですって。
お客さんの要望に応え、手作りで美味しい飴を作る
岩井製菓が千歳飴の製造を始めたのは創業して少し経った頃。
「最初はお得意さんからの依頼だったんです」
千歳飴といえば円柱のものがほとんどですが、岩井製菓の千歳飴は少し平たい形が特徴です。
「これもお得意さんと考えたんですよ」
というのも関東の一部地域では七五三の時、町内の人や親戚などを招いて披露宴をする風習があるのだとか。その引き出物用として、のし袋に1本ずつ入れた千歳飴を開発しました。ところが実際に包んでみると少し平たくした方が、すわりがよかったことから、この形に。そして、さらにお客さんの要望に応え、色も昔ながらの白と赤に加え、緑、紫、黄色が加わり全部で5色になりました。
また、袋も数ある中から選べるようにと、昔ながらの「高砂」デザイン(写真左から2つ目)に加え、子供のイラストが描かれたオリジナルの袋、そして千鳥と鈴をデザインしたおしゃれな袋を用意。また、一番左の白地の袋は自由に絵を描くこともできるんですって。
その他、話題性を考えて虹色の「なないろ千歳飴」なども開発しましたが、
「やはり昔ながらの定番の千歳飴を変わらない製法で作ることが一番、大事だと思っています。色も昔ながらの淡い紅白の飴が基本です」と社長さんは言います。
そしてオートメーションにしたら一度にたくさんの千歳飴が作れるのでしょうが、素材を活かすため、手作りを大切にしています。
「もちろん早く、たくさん作れた方が会社としては良いのでしょうが、そう思って鍋の数を増やしたら温度を見守ることができなくなり、鍋を焦がしたり、飴を切る時の呼吸が合わなくなってしまいますからね。やはり手作業は大切にしつつ、丁寧な飴づくりをしたいと思っています。そして飴屋としてもっと極めていきたいですね」
千歳飴がこのような手作業で作られているとは全く知りませんでした。子どもの成長を願って食べる千歳飴ですが、大人も健やかな成長(!?)を願い、また健康で長生きできるよう祈りながら、千歳飴を食べてみてはいかがでしょうか。
■■INFORMATION■■
岩井製菓
京都府宇治市莵道丸山203-3
TEL 0774-21-4023
営業時間 9:00-18:00
休 土・日曜、祝日
購入は直売所、オンラインショップにて https://iwaiseika.ocnk.net/
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