【滋賀】国際コンクールで金賞受賞!「業界で注目を集めるチーズ」
関西の輝く女性にスポットライトを当て紹介する『anna』の連載企画『あんな、ひと』。第4回目は、滋賀県・竜王町の牧場で発見!
今回は、ゼロからチーズ作りを始めて、約5年で日本を代表するコンテストの金賞に輝いたという女性チーズ職人の作業現場を直撃します。
■国産チーズコンクールで金賞を受賞した業界で注目を集めるチーズ
今回の『あんな、ひと』古株つや子さんがいるのは、牛800頭以上を飼育する『古株牧場』。つや子さんは、併設された工房でチーズ作りを担当しています。
つや子さんが作るチーズは、常時13種類ほど。代表作である『つやこフロマージュ』は白カビを使った熟成タイプのチーズで、ほどよい酸味ととろ〜りとした口当たりが特長です。
■美容業界から一転、はじめたのはチーズ作り
滋賀県・竜王町で牧場を営む酪農一家の末っ子として生まれたつや子さん。酪農家として忙しく働く両親の姿をみて育ったつや子さんは、家業を手伝う気はなく、18歳で実家を離れ、京都で美容師として働きはじめます。
その間、ご実家では、酪農の未来に危機感を感じていたつや子さんのお母さんが、牧場の牛乳を使った加工品の販売を始めました。
さらに、パティシエを目指していたお姉さんも加わり、ソフトクリームやジェラートといった加工品事業を拡大。道の駅などでの販売も軌道に乗ってきたところで、お母さんから「つや子も一緒にやってくれへんか?」と誘いを受けます。
最初は悩んでいたつや子さんでしたが、何度もお母さんから話を聞いているうちに、少しずつ牧場のことが気になっていたそう。
「これまで外から客観的に事業をみてきた私が加わることで、もっとおもしろいことができるんちゃう?私も実家の牧場を支えたい!」と一念発起、23歳の時に地元・滋賀県に戻ることになります。
つや子さんが家業に戻ってきた時、お兄さんは近江牛の畜産を、お姉さんは乳製品を使ったスイーツ作りを担当していました。そこで新たな事業の柱を目指したつや子さんは「今まで扱ってこなかった“チーズ”を作る!」と家族に宣言。これまでチーズ作りの経験のないつや子さんの突然の言葉に家族からは反対の声もあったそうです。
■運命のチーズとの出会いはフランス農家ツアー!?
ひとまずチーズに関するカルチャースクールなどに参加してみますが、チーズの知識は増えても、チーズ作りの知見は得られません。
そこで、スクールを通じて知り合った講師に相談したところチーズプロフェッショナル協会が主催するフランスの酪農家を巡るツアーを紹介されます。
「当時はどんなチーズを作りたいのかも決めていなかったんです。でも、このツアーで出会った『サン・マルスラン』という酸凝固タイプの熟成チーズは、そのおいしさはもちろん、熟成度によって味や風味が変化するおもしろさに衝撃を受けました。しかも、製造から2週間ほどで食べられる状態になるんです。独学でチーズ作りに挑戦してみるものの、迷いしかなかった当時の私には、短期間で完成するチーズは挑戦しやすいことも魅力的でした」と思い出を語ってくれました。
この出会いが、『つやこフロマージュ』のはじまりとなります。
作りたいチーズが決まれば練習するのみ。分からないことがあれば北海道のチーズ工房やフランスなど国内外問わず訪れて学び、チーズ作りに邁進します。
時にはチーズ作りに悩むこともありましたが、家族の支えと持ち前の意志の強さから「なんとしてもおいしいチーズを作り上げたい!」と思っていたそう。そしてチーズ作りを始めてから5年目を越えるころには、目指していた『つやこフロマージュ』に近いものができるようになっていました。
まずは牧場併設ショップ&カフェの『湖華舞』で販売してみましたが、ジェラートやケーキが並ぶ店内では地味な存在。馴染みが薄いチーズはチーズケーキと勘違いされてしまうこともあったそうです。
『つやこフロマージュ』をもっと知ってもらいたい、そう思ったつや子さんは、さまざまな食品ショーや展示会に参加を決意します。
その1つである日本最大のチーズコンテスト『JAPAN CHEESE AWARD 2014』で、『つやこフロマージュ』が金賞を受賞しました。以降、少しずつ注目されるようになったことで、有名ホテルのレストランや飛行機の機内食でつや子さんのチーズを提供したいと声がかかります。
しかし、まだまだできあがりに満足していなかったつや子さん。それらの話を断り、「今後もっとおいしいチーズを作れるよう、今だからこそもう一度基礎から勉強したい!」とフランスへと旅立つことに。
フランスではリオンやコンドリューを拠点に、牧場に住み込む形でチーズ作りを勉強しました。想定外のチーズの変化に対する対処法など、たくさんの知識と経験を得て約1年後に帰国します。
納得のいく『つやこフロマージュ』が完成したところで、以前声をかけてもらっていた話も再開。つや子さんの作るチーズは、JALファーストクラスや星野リゾートで採用され、今も取引が広がっています。
■チーズ作りは重労働!
つや子さんの1日は、午前7時から始まります。2歳、5歳、8歳の娘さんを保育園や学校へ送り出した後、午前8時に牧場へやってきます。
午前中はチーズ作りがメイン。準備を整えると、その日の朝に搾ったばかりの牛乳が入ったタンクを運ぶことからチーズ作りが始まります。敷地内とはいえ、「20kgある牛乳のタンクを運ぶのは大変なんですよ」と笑顔で語ってくれました。
発酵食品であるチーズは、湿度と温度の管理が大切です。専用の機械を使って管理していますが、現在チーズ作りを担当するのは2人だけ。
『つやこフロマージュ』以外にも複数のチーズを製造するため、慌ただしく午前中が終了します。
午後には、完成したチーズをたくさんの人に届けるため、ラベル貼りや梱包、発送などの作業をしています。
時間を見つけては、半地下に造られたチーズ貯蔵庫を訪れ、チーズの状態をチェック。2日に1回はチーズを反転させて発酵を促します。
大きなチーズは5kg近くもあり、全てのチーズを反転させていく作業はかなりの重労働です。
そして、18時には仕事を終えて帰宅。食事の支度や掃除に取り掛かり、1日の終わりはご主人との晩酌です。「“今度こんなことしようと思うねん”と仕事の相談をすることがあっても深く干渉せず、放っておいてくれるのは助かっています(笑)。チーズに詳しくない主人が第三者の目線で話を聞いてくれるから、相談しやすいのかも」と嬉しそうに笑います。
チーズに合う和食やお酒を考えているとあっという間に1日が終わります。
そんな慌ただしい毎日の息抜きはドライブ。愛車は、自身よりずっと前に生まれた74年式の旧車です。
家族から「古いし壊れそうやし……。いつまで乗ってんねん」と言われることもあるそうですが、「見た目がカッコいいし、乗っているだけでテンション上がります。カッコつけて運転している自分も好きなんですよ(笑)。何も考えずに滋賀の広い道を走っている時だけが、ストレス発散できる唯一の時間です」とつや子さん。
■地元・滋賀でチーズを身近に感じてもらうために
業界やチーズ好きからは注目を集めている『つやこフロマージュ』も、滋賀県でチーズが作られているということも含めて知名度はまだまだこれから。
「もっと身近にチーズを感じてもらいたい!」と考えたつや子さんは、牧場で“チーズ・バター作り体験”を開催しています。
新型コロナウイルス感染症対策のため現在は1日1組限定ですが、「夏休みの自由研究用にもいいと、お子さんのいるご家族から好評です。どうしても時間のかかるところは、ショートカットしつつ、約60分でバター、モツァレラなど合計3種類のチーズ作りが体験ができます」と地域での活動も活発に行っています。
■「古株牧場」のおすすめ商品
(1)つやこフロマージュ 酸凝固 100g(830円・税込)
熟成タイプのチーズ。冷蔵庫でも熟成は進み、風味や香りは一段と強くなります。つや子さんおすすめの食べ方は、購入後さらに2週間ほど熟成させてから蜂蜜をかけるというもの。チーズの風味がより一層味わえるそう。
(2)酒粕フロマージュ 100g(880円・税込)
地元滋賀の日本酒『松の司』の酒粕を使って作った酸凝固タイプのチーズ。ふんわり食感で香ばしい酒粕の香りも心地よく、少しどっしりとした日本酒と合わせるのもおすすめです。
(3)モッツァレラ 160g(720円・税込)
熱湯を注ぎ、練り上げて作ったフレッシュチーズ。トマトを合わせてオリーブオイルで仕上げるカプレーゼやピザのトッピングにピッタリです。イチジクや柿など、旬のフルーツに合わせるのもおすすめですよ。
(4)シュクレチーズケーキ(380円・税込)
つや子さんが、スイーツ担当のお姉さんにお願いして作ってもらったというスフレタイプのチーズケーキ。『つやこフロマージュ』を使用して作ったチーズケーキは、甘みと酸味のバランスが絶妙です。
<店舗情報>
古株牧場 湖華舞(こかぶ)
住所:滋賀県蒲生郡竜王町大字小口字不動前1183-1
電話番号:0748-58-2040
営業時間:【冬期(11月〜3月)】10:30~17:00【春秋期(4月〜10月)】10:30~18:00
定休日:水曜日(※8月のみ10:00~18:00 無休)
※『つやこフロマージュ』など一部商品はオンラインでも購入が可能です。
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「チーズを作る時に発生する“ホエイ(乳清)”を使った新しい事業や日本食と合うチーズの開発など、今後もやりたいことがたくさんあるんです」と語るつや子さん。これからどんな新しいチーズを生み出してくれるのか、見逃せませんね!
『あんな、ひと』では、次回も関西で活躍する女性にスポットライトを当て紹介します。お楽しみに!(取材・文/高田強 撮影/井原完祐)
【画像・参考】
※ 古株つや子/anna
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